大好きなサッカー選手が大怪我をした。目の前が真っ暗になるような知らせだった。なんとかその選手を勇気づけることはできないかと考え、そのサッカーチームのマスコットの大きなぬいぐるみ(重さ約5kg)を背負って長距離を歩く活動をはじめた。コーチにその時の写真を見せると、とても驚いたような、嬉しいような表情をしていた。私も誰かを笑顔にすることができるんだな、と思った。
 
 そのうち、もっと負荷をあげてみたいと思うようになり、そのぬいぐるみを背負ったまま山登りをすることにした。実は私、山登りは大嫌いだった。以前家族に連れられて行ったときは、息は切れるし、膝は痛いし、景色を楽しむ余裕などなく、つらいものでしかなかった。でも、カーブスに通っている今なら、できるような気がした。
 コーチはみんな、私の目標を全力で応援してくれた。重い荷物を背負うとき、意識は肩にいきがちだが、大事なのは下半身の筋力。専門的で的確なアドバイスもくれた。しばらくコーチおすすめのマシンを頑張っていたら、嬉しいことに太ももの周径が小さくなっていた。
 山登りの前日、急に私にはできないような気がしてきた。生まれてこのかた運動が苦手な私に、自信などずっとなかった。コーチにそっとその思いを打ち明けてみた。「ここのところのP子さんの頑張りを、私たちはずっと見てきました。大丈夫ですよ!」私をずっと見て、支えてくれたコーチだからこそ言える、根拠のある励ましをくれた。そして、一緒に来てくれる友達を頼って良い、とも言ってくれた。そもそもサッカーは11人で戦うスポーツ。ひとりで何とかしなくていい。この挑戦をはじめた原点を思い出させてくれた。
 当日は、誰かが背中を押してくれているようないい天気だった。急ぐことはせず、自分のペースで登っていった。最初に決めたとおり、弱音は吐かなかった。目立つことをしているので、道中は多くの人に話しかけられた。その人たちはみんな笑顔で、善いことをしている気持ちになった。
 ところどころ雪の残る道を抜け、仲間の励ましを受けながら、2時間ほど。ついに山頂へたどり着いた。タオルで額の汗をぬぐってから感じた風が、本当に気持ちがよかったのを憶えている。

 「応援する」って、とてもあやふやな行為。心の中は、いつも誰にも見えない。だから私は行動で示そうとしたのだと思う。怪我をした選手を励まそうと思ってはじめたことだったが、いつの間にか、私がコーチや仲間に励まされていたのだ。さっそく次の目標をたてた。さらに仲間を増やして山登りをすることだ。私にも心と体の応援団がいるとわかったから。