「行ってみたらどうですか?」
新聞の折込チラシ、カーブスの"姿勢矯正"の文字に心惹かれながら決定打のなかった私に、整形外科の理学療法士さんの言葉が背中を押した。
 ぎっくり腰からの腰痛がなかなか治らず、こわごわと過ごす毎日。整骨院を経て整形外科へ通い始め、理学療法士さんから筋肉をつけましょうと毎日自宅で簡単な筋トレをするように指導されていたものの、改善されている実感はない。やり方も果たしてこれで良いのだろうかと思いながら、義務感満載でやっていた。コーラスの伴奏やボランティア演奏でもピアノに向かう時間が多いのだけれど、腰も定まらなくて音は冴えず、長く座っているのが苦痛だ。字のごとく腰はカラダの要(かなめ)だとため息が出る。
腰を庇おうとするせいか、変な姿勢をとっていることが私の中ではここ数年の大きな懸念事項だった。
こんな姿勢のままでは近い将来歩けなくなるのではないかと憂鬱な気分で過ごしていた時、カーブスのチラシが目に止まったのだった。
理学療法士さんに「カーブスに体験で行ってみようかと思っているのですけど。」と話すと「患者さんでも年配の方、通ってますよ。行ってみたらどうですか?」と言われ、体験会に行ってみようと決心したのだった。

 それまでもカーブスは知っていた。自分の年齢も棚に上げ、理学療法士さんの言葉のように年配の人が通っているイメージもあった。通っている人から話を聞いて、器具を使っての筋トレは単調そうでつまらないのではないか、そんなふうに思っていた。

 体験には腰が心配でコルセットを装着して出かけた。
ドアを開けると大勢のメンバーさんが筋トレをしていてまずは圧倒された。
スタッフさんは挨拶をしたり、見て回ったりとても忙しそうに動いている。
(わーこんな感じなんだ。)
ベルトコンベアーで回っていく何かを思い出さないわけでもなかったが、皆さんが、多くは私より年上の方々が元気よく一生懸命にやっているのには素直に頭が下がる。
色々な説明を受け少し考えたい気持ちもあったけれど、本日のお申し込みなら入会金が割引になります、との文句にその場で入会を決めた。
しかも1年以上通わないと月謝の割引もなくなるという。
単調そうに見えるこの筋トレ、果たして続けられるのだろうか、との不安もよぎる。

 が、実際にやってみると単調ではなかった。
やり方はこれでいいのだっけ?ん?この器具はどっちの手が上だっけ?
今どこの筋肉を使っているのかな?ちょっとは使えているかな。あれ、これはどこの筋肉を使っているんだろう?
慣れないせいもあって、毎回毎回が新鮮だった。
同じことをやっていてもその日の体調によっても違う。毎回違う。
毎日のお味噌汁のようだ。毎日食べるけど毎日違う飽きることのないお味噌汁。
と、まだ3回目の札を首からぶらさげていた日の帰り道、踏切がカンカンいいだしたら、体が自然と動き出して小走りで踏切を渡ってしまった。自分でも驚いた。腰痛になって以来、無理はせず大人しく遮断器の前で待っていたのだ。大丈夫だと脳が判断したのか体が判断したのか、以前の私に戻っているではないか!
それと同時に腰痛が消えていることも実感したのだった。
朝起きる時も違っていた。
 這うようにしてそろりそろりとしていた私はどこへ?
カーブスのおかげなのか?!こんなに早く効果を感じられるものなのか、とただただ驚くばかり。
苦労しながら一人で寝る前にやっていた筋トレはなんだったのか。
もっと早くやっていればよかった。いや、今がその時だったに違いない。始めてよかった。
色々な思いがくるくると回る。
スタッフさんの「今日は体調・腰痛大丈夫ですか?」という問いかけにも「全然痛くないです。大丈夫です。」と笑顔で答えられる嬉しさ。鬱々とした思いが吹き飛んだ。
ちょうどこの頃、義母の病院の付き添いや買い物の手伝いなどで電車で往復3時間かけて通う日も増えてきた。曜日の決まっていない予約のいらないカーブスは本当に行きやすい。自分のために時間を作ってカーブスの場所に居られることは自分を大切にしているような、そんな思いも湧いてくる。

 今9ヶ月が過ぎ、やっぱりカーブスはお味噌汁だ、と思う。
食べない日もある。肩肘張って作る料理ではないけれど、その日の冷蔵庫にあるもので、でも家族の健康を願って料理する普段着のお味噌汁。毎度毎度具材も違うし、同じ具材だとしても全く同じものではない。そして日本人ならやっぱり食べるとホッとするお味噌汁。

 カーブスも体を動かすとなんだかホッとするのだ。単調だと思うことは全くない。
そして同じことをやっていることで今日の自分の体の調子を客観的にみることにもなる。
そして、この味噌汁のようなカーブスに新鮮さを添えてくださるのがスタッフさんの存在だと思う。
「直子さん、こんにちは。今日もこれましたね。」
「もう少し早く動かしてみましょうか。」
「いいですよ、この調子で。」
たくさんのサポートのおかげで味噌汁はますます味わい深いものに、また次もと思える活力になっている。

 踏切を走って通過したその日以来、コルセットは箪笥の奥にしまい込んだまま今に至る。
ピアノを練習していても腰はどっしりと落ち着いて座っていられる。
そして、カーブスへ行くことに背中を押してくれた理学療法士のお兄さんの元へはあれ以来行っておらず、腰痛がないことを報告できないままになっているのがほんのちょっぴり寂しい。