私は運動神経の鈍い子供だった。運動会は楽しくなかったし、体育の授業のドッチボールも逃げる一方で、ボールに当たってコートの外側に出てしまうと、もう内側に入る事は不可能だった。唯一野外学習で嫌でなかったのは遠足だけと記憶している。
 夫が定年退職で一日中家の中で過ごすようになった時、子供達は独立して家を離れていた。働くだけの生活で特別の趣味もない夫婦が2人きりで家にとじ込もっているのはどうかなと思い始めた頃、近所の奥さんに「歩くスキー」のサークルに誘われた。生まれも育ちも北海道の道産子(どさんこ)なのにスキー場へは行った事がなく、スケートを穿いても立つ事がやっとの私がこの年齢で始めるのは無理と迷ったが、近くの公民館でスキー道具一式を貸し出してくれるとの事で思い切って参加してみた。「歩く」という言葉のイメージだけが先行して、私の頭の中では歩行が可能なら歩くスキーは出来るものと思い込んでいた。それは全くの間違いでスキーは滑る道具だし、コースは平坦ではない。登りもあれば下りもある、それすら理解していない初心者だった。
 一見してシニア風の男女25~6人の集まりで、皆さん親切にスキー靴をはく所から面倒をみてくださり、何とか前に進む事が出来るようになった。少し大きな坂はしゃがんで滑ったり、スキーをかついで歩いておりた事も何回かはある。1月から3月まで週2回の活動日に参加しているうちに徐々に慣れて数年後には年1回開催される白旗山歩くスキー大会(札幌市)の5kmコースを転ばず1時間以内で完走できるようになった。家の外での冬の楽しみを1つ獲得して嬉しかった。

 2020年、この年の北海道は根雪になるのが遅く、歩くスキーの初滑りは1月12日(日)、近くの公園との連絡が入った。数ヶ月ぶりのスキーにワクワクしながら出かけたのだが、そう難しくもない斜面で尻餅をついてしまった。背中にズキンと気持ちの悪い衝撃が走った。立ち上がっても歩くのに支障がないのでそのまま帰宅したが、腰のあたりが普通の感じでない。やはり病院へと思ったが日曜日は休診日、翌日は成人の日で休み、病院行きは火曜日になった。診断は、予想通りの背骨の圧迫骨折。入院は免れたものの、上半身ぴったりのギブスを着用、風呂以外は寝る時もそのままと言い渡された。
 
 私は札幌の隣り街、北広島市に住んでいる。北海道で特別雪の多い所とは思わないがそれなりの降雪がある。4年前に夫が他界し、一人暮らしの身になっての冬の難題は雪掻きだ。雪が降ると玄関前から市道まで雪をよけて道をつける。ギブスをしたままでの作業は御近所さんに助けられた。又、市の高齢者支援センターの計らいで10cm以上の積雪の時にはボランティアの人も来てくださった。医者に腰を曲げてはいけないと言われ、風呂に入れずにいたらこれも支援センターの人が高齢者の介護保険を使って週一度のディサービスに通えるように手配してくれた。ある程度費用はかかるが家の前から送迎バスに乗り施設の風呂で洗髪して、リハビリと昼食、お喋り相手も居てくれて快適だった。ディサービスには2年半世話になった。介護保険制度を利用出来て感謝している。
 怪我をきっかけに冬の一人暮らしの不安解消を考えて一戸建の家から集合住宅へと引越しをすませた。12月から3月の冬期間、屋根の雪おろし、家のまわりの雪の始末、水道凍結させないため家を無人に出来ない等々、子供達とも相談のうえ、私にとっては大きな決断だった。転居といっても同じ市内の10km程離れた団地だ。親しい人達と会いづらくなったが雪の心配から解放されてホッとしている。そしてカーブスと出会った。
 
 近くのスーパーに買い物に行く度、通路の奥から元気な女性の声が聞えてくる。「カーブス無料体験者残り○○名」の看板が目に入る。「カーブスって何?」と友達に聞いてみた。女性専用の体操教室のようなものとの答え。ディサービスに通わなくなってからリハビリも怠けているし一寸覗いてみようか。無料の語句に背中を押され扉を開けた。明るい光と軽快なリズムが響き20人程の女性がキビキビと動いていた。すぐにスタッフの女性が出迎えてくれてカーブスについての説明と体験もさせてくれた。部屋は明るく清潔そうでスタッフの女性も体を動かしている皆さんも一生懸命な表情が好ましい。楽しそうな雰囲気に引かれて、入会を即決した。
 カーブスへは1週間に3回を目標に通っている。カーブスに入って良かったのは毎日の食事に関心を持てた事だ。自分のためだけの食事作りに虚しさを感じていた。今はカーブスの「たんぱく点数チェックシート」を参考にして調理している。肉、魚、乳製品、卵・豆と1日に必要な摂取量が具体的に描かれていて分かり易い。
 先日友人に「髪の毛が黒くなったね」と言われた事をカーブスでスタッフに話したら「プロティンの成果ね」と笑顔で返された。真実はともあれ、白髪に黒い毛が交り心身共に若返ったつもりになれたら前途に恐いものなし。頑張って長生きしよう。カーブスさん、よろしく。