カーブスのドアを開けると「むつみさん、こんにちわあ」と弾んだコーチの声が飛んでくる。次々とコーチ全員の声が飛んでくる。パッと気持ちが明るくなるのを感じながら、「お願いしまあす」と私も手を振ったりして挨拶を返している。こうして明るい声で迎えてくださるコーチの声かけが、メンバーの気持ちをどんなに上向けてくださるかわからないような気がしている。勿論私は筋トレが大好きでカーブスのドアを開けるのだけれど、コーチの声で更に筋トレに励もうという思いになるから不思議である。
 支度をして水を持って進むと、すぐにコーチが気付いて、「今日は○番からお願いします」と指示してくださる。その時のマットの番号によって、「ワッ、レッツゴーの五番ですね、ありがとう」。七番なら「イエーイ、ラッキーセブンだあ」。十一番なら「わあーい、いい番号の十一番をサンキュー」などと、おやじギャグをまきちらしながら進んでいる。
 私のモットーは「決してマイナスを言わない」である。たとえば、「今日の体調は?」と聞かれたら「絶好調です」「花丸です」「ベリーベリーグッドです」などと答えることにしている。Vサインを出しながら。そのせいか、最近は「ポジティブむつみさん」と呼ばれることが多くなった。
 
 たまたまカーブスマガジン六十七号では"こころの羅針盤"で衛藤先生が「ポジティブに考えて行動するために必要なことは?」と題して指導してくださっている記事を見つけた。読んでみて「やっぱりね」と大いに納得したものである。衛藤先生は「広い人間関係を持ち、行動範囲を広げ、運動することも大事」と書いてくださっている。それを見て「全く、私じゃん!」と叫んでしまったほどである。
 自治会の会合に行ったり、買い物やゴミ出しなどで出会う奥さん達と話していると、ご自分の、あるいは家族の病気の話、ディサービスで出合った不愉快な話などが定番のように出てくる。眉をひそめつつ悩まし気に話される姿を見ていると、こちらまで哀しくなってしまう。どんな言葉を返してあげたら良いのかと考え込んでしまうのである。あげくに「もう何もしたくないの。どこにも行きたくないの。欲しいものも無いし、テレビ見てボーッとしてるだけ」などと言われると、言葉を失ってしまうのである。
 カーブスの筋トレに誘った時は「私は毎日ウォーキングしてるから大丈夫よ」と言う人もあれば、「だってつい最近までさんざんお百姓をして体を鍛えてきたのだもの、筋トレの必要など無いわよ」と返事をくださった人もいる。
 それならと思い直し、「『チェアリング』というスポーツがあるの。天気の良い日に椅子を持ち出して、日光浴を兼ねてすばらしい景色を眺めたり、本を読んだり、ボウととりとめなく考えたりしながら時間を過ごすの。スポーツとは言えないかも知れないけれど、ストレス解消にもなって、又、元気が湧いてくるのよ」などと紹介するのだけれど、「私、そんな趣味無いから」とはねつけられてしまう。「あら、ザンネン」と話を打ち切るけれど、相手のためにも残念である。チェアリングをして欲しいのではなく、どこかに興味を持てるものを見つけて欲しくて、一つの例かヒントのようなつもりですすめているのだけれど、真意は伝わらなかったらしい。
 
 一方、私にはたくさんのランチ仲間がいる。映画鑑賞や詩吟などの趣味の仲間。奉仕団体。読書会。カーブスのメンバーさんなど。何組ものランチ仲間がいて、予定を立てるのに忙しい位である。どの仲間といても、マイナスの話題を持ち出さないのでとても好ましい。出会う人みんなが善い人ばかりなのが有難い。
 
 決してマイナスを言わないというモットーの私にも弱味はある。週一回、整形外科に通ってリハビリを受けているのである。二年前、急に右肩が痛み始めた。単なる肩凝りではない気がして整形外科へ行ってみると、「右肩腱板断裂」という診断を受けた。左右の肩にはそれぞれ四本ずつの腱があるらしいのだが、右肩のそのうちの一本が切れているのだという。初めて知った傷名だけれど、同じような症状の人がたくさん通っていることにも驚かされた。その多くの人達が痛みに堪えかねて接続する手術を受けているということも知った。私もはじめのうちこそ重いものが持てなかったり、後へ腕を回せなかったりするためにヒアルロンサン注射を打ってもらったりしたのだが、多少の違和感はあるものの、いつの間にか痛みが消えてしまっていたのである。それでもリハビリに通っている以上、毎月一回は医師との面談がある。つい最近のことである。内心でバンザイを叫んだほど嬉しいことがあった。
 面談で医師が聞くのはいつものことである。
 「痛みはあるかね?」 「いえ、ありません」
 「寝ていて、痛みで目が覚めることは?」 「ありません」
 「腕を上げると痛みは?」 「無いです」
 「腱が切れているのに痛みが無いなんて本当かね?」 「本当です」
 「ふうん?」と医師は首を傾げている。
 「おかしいですか?」
 「うん、おかしいね」と医師は断言した。
 
 全くもってびっくり仰天である。傷病を治すのが医者であろうに。症状が無ければ喜んでくださり、ご自分の腕を自慢する位のことをしても良かろうに、と思うのに、痛みが無くなったら不思議がられるなんて、こちらの方が呆気にとられてしまうのである。
 
 早速、カーブスの店長とコーチにその話をしたら、「むつみさんが一生懸命に筋トレに通って鍛えているからですよ。ずっと続けましょうね」と言ってくださり、「はい、カーブスとコーチの皆さんのおかげです」と私は思っていることを伝えた。それに加えて、衛藤先生がおっしゃるように、ポジティブ思考がプラスに作用して、快適な体調を維持できているのかもと、少しうぬぼれたりもしている。
 さあ、この調子で寿命尽きる日まで、筋トレとポジティブ思考で生き抜こう!改めて決意した次第である。