何をしていてもつまらない。二度と帰って来ないのかと思うと、虚しくて悲しくて、悔しくて・・・。一日に何度となく仏壇の前に座り、遺影に語りかける。突然逝ってしまった次男。家族は元より、本人が一番ビックリしていることだろう。自分がこの世から消えてしまうなんて...。体調が悪いと言って救急で受診。何も語らず、心の準備もできないまま、あっという間に...今でも信じられない・・。
 
 結婚して15年、東京で5年、大阪で10年。念願の会社を立ち上げ、マイホームを手に入れ、待望の子供も授かり、順調に幸せな暮らしが続くと信じていた息子家族。もちろん私たちも...。子供の頃から本が好きで、常に単行本を携帯し、何でもよく知っていた。いつもなら、年末早くから帰省し、一週間~十日間滞在し「実家はいいなぁ・・・」と、おふくろの味を堪能、故郷を満喫していた。
 海外との取引がメインで昼夜逆転の生活。仕事が面白いと言っていたが、代表としての責任、プレッシャーは言うまでもなく・・・決して弱みを見せず、「大丈夫、大丈夫」と毎朝、7時前後には電話をくれ、「一仕事終わったわ・・・」と。色々なことを教えてくれた。社会情勢から、今流行っている事、この先注目する事・・・。インターネットの便利さも色々教えてくれた。電話が無いと何かあったかと心配になるほど日課になっていた。
 先見の明があるのか、センスがあるのかビジネスは順調。常に前向きで、家族への愛情も深く、もちろん親孝行も沢山・・・。人付き合いもよく、学生時代からの友人が全国に居て、先輩・後輩を大事にしていた。コロナで世界中がマスク不足に苦労していた時、真っ先に「500枚送ったから兄貴にも分けたって」と・・・。兄へと気配りも忘れない。雪が降れば、雪かきが大変だからと除雪機を送ってくれたり、毎日の掃除が楽になるようにと、ダイソンコードレス掃除機の最新式をプレゼントしてくれたり、キムチ好きの私に、韓国料理専門店の料理を送ってくれたりと細かな気配りはまるで娘のよう。
 
 葬儀後、無気力な日々が続き、誰にも会いたくなく、眠れず、食欲もなく・・・。「ああ、これが鬱への入口か...」と感じる。とにかく喪失感でいっぱい。人生100年時代と言われる今、46年の生涯は余りにも短い。太く短く、二倍速で駆け抜けた人生。悔しくて悔しくて、心はぐちゃぐちゃなのに涙が出ない。息子の気持ちを思うと無念で無念でやり切れない。もう二度とこの家に帰ってくることはないのだと思うと心が張り裂けそうになる。あの穏やかな笑顔、声・・・。まだまだ受け入れられない。
 
 田舎料理が好きで、特に「丹後のばら寿司」「なます」を好み、帰省の都度腕を振るい食べさせた。倒れる一週間前も「丹後のばら寿司が食べたい」と言うので、直ぐに作り送ってやった。それが最後になるとは思いもしなかった。一生かけて成すべき事を二倍速でやり遂げた息子...よく頑張ったと褒めてやりたいが、しかし親より先に逝ってしまった...そこだけは親不孝者。長男夫婦や孫たちが、「お婆ちゃん、しっかり食べなあかんで・・・」みんなが気遣ってくれる。
 
 月日の流れるのは早く、こうして何とか立ち直りつつあるのも、家族やカーブスのお陰だと思える。体を動かし、コーチやメンバーさんと冗談やバカ話している時だけは悲しみが和らぐ。メンバーさんとの広く浅い関わりが心地いいと感じる。カーブスへ通っていなかったら今頃どうなっていただろうか。まだまだ現実として受け止めきれず、心が気持ちが行ったり来たりしている。立ち直りが早いとか、「強いなぁ」とか言われるけど、全然そんなことはなく、カーブス以外の場所へは出かける気持ちになれない。日に何度も落ち込み、心が、気持ちが涙でいっぱいになる。
 
 しかし、これからは、46年間の面影を心に刻み前へ進むしかないし、忘れ形見の孫の成長を見守りながら精一杯の支援をしてやらなければと思っている。大黒柱を失った息子嫁は、会社を引き継ぎ、社員と共に気丈に頑張ってくれている。4月から6年生になる孫は、今の時代の子らしくデジタルに強く、プログラミングを得意とし、早くから父親に「投資や」と高価なパソコンを与えてもらい熱心に学習しているせいか、プログラミング検定で小学生の部門で金メダルを獲得したとか。どんな事にもポジティブ思考で、顔も言動も父親そっくり。
 
 世の中には子供に先立たれた方は数知れない。親との別れは悲しいけれども覚悟の上のこと。高齢であれば仕方ない。今回の息子の死は、私の死生観を大きく変えた。「いつまでもあると思うな親と金」「ないと思うな運と災難」運も災難も皆平等に巡ってくる。長男がポツリと「今まで全て順調に来れた我が家だが大きな代償になってしまった」と。今まで死を、ただ漠然と遠くにあるものとしか思っておらず、こんなにも身近である事と人の一生の儚さを思い知らされた。

 ある人が、「人は生まれた時から寿命は決まっているもの...」と。なんの因果か、生まれて直ぐに亡くなる子供がいれば、100歳を生ききる人もおられる。この先何年の寿命が残されているのか知らないが、今までみたいに心底楽しむことが出来そうもない。震災や戦争で大切な家族を失った悲しみは、今は痛いほどわかる。どんな言葉にも言い表せない深い悲しみ...。只々寄り添い忘れない気持ち。それだけでいい。

 明日はひな祭り。息子が大好物だった「丹後のばらずし」を仏前に供えよう。