「母ちゃんの背中ずいぶん丸くなったな」。洗面所で手を洗っている私の後ろを通りかかった息子の一言が背中を押した。
 運動不足、体力の低下、下腹ぷっくり、猫背気味の体形は加齢と共に酷くなっていることは自覚していた。六十歳を過ぎたころからコレステロール値や血圧も徐々に高くなっていた。年に一度の検診ではいつも医者から注意される。かといって散歩も「寒い」だの「雨が降りそうだ」「風がきつい」と理由をつけては全然しない私だった。
 テレビで「一日五分でお腹すっきり」などとやっていると真似てやってはみるものの、三日坊主どころか一日ぽっきりでやめてしまう。そんなこんなで、テレビで紹介していたストレッチのメモ書きや「二か月で猫背が治る」「怠け者でも大丈夫、寝たままストレッチ法」とうたった本が、何冊も本棚に眠ったままになっている始末である。
 息子に言われた言葉が心のどこかに引っかかってもやもやしていた。タイミングよく新聞の折り込みチラシに「あなたもカーブス流健康美を目指そう、一か月無料体験」。「んっ無料!」ケチな私は目が点になった。でも...若い人ばかりじゃないのかしら?私のようなばあさんじゃなぁ?チラシを前に迷った。おそるおそる電話をした。「年齢は関係ないですよ、いつでも気軽にいらしてください。」と元気な感じの良い対応で何だか孫と話しているような感覚になった。迷いは吹っ切れていた。すぐに予約を入れた。
 その日は来た。ショッピングセンターの二階にあるカーブスからは元気な掛け声が聞こえてくる。三十段ほどの階段が私にはきつい。息を切らして登った。「いらっしゃい、茂子さん。」初めてだというのにどうして私がわかったの? それに、苗字でなく名前で呼んでくれる、いっぺんに緊張はほぐれた。と、同時に運動している人たちは、私が懸念していた若い人たちばかりではなく同年代と思われる人も結構いらっしゃったのでほっとした。
 早速体験させて頂く。それぞれのマシンの使い方や体のどの部分に効果があるのかをマンツーマンで丁寧に分かりやすく説明してくださった。ベテランらしき会員の人は二の腕を引き締めるマシンをすいすいと何回も動かしているが、腕の力が弱い私は一回動かすのがやっとだ。「じきに出来るようになりますよ」「お上手、凄い、初めてとは思えない」。なんと気持ちのよい誉め言葉。褒められるのは幾つになっても嬉しいものだ。体験は疲れも出ずむしろ物足りないような気がした。
「疲れるまでしたら続きません、かえって体に良いことは無いです」。そうか、納得。私は迷うことなく入会の申込みをした。
 わが家は夫と私、息子夫婦と孫一人の五人家族である。息子夫婦は会社勤めをしている。私たちは夫婦で理容店をしている。夫は七年前、七十五歳の時心臓病で倒れ手術をした。その後仕事は出来なくなった。「もう店を閉じようか」と私が言った。「俺の店だ!」と激怒された。それ以来禁句である。最近認知が進み施設に入所させて頂いた。だが、私の一存で店を閉める訳にもいかないので、予約制にした。自分の時間を作ることができた。という訳で、息子のひと言も後押しし、カーブスの門をたたくことができたのである。めでたし、めでたし。と、ここで終わりではない。話はここから始まる。
 さて入会させて頂いてメンバーさんたちと筋トレ、「猫背を直すぞー」と張りきって行ったが、二階までの三十段ほどの階段を上がるだけで息切れ。運動不足を実感する。ふーふーと言って駆け上がると「茂子さんいらっしゃい」。元気に声掛けしてくれるスタッフさんたち。運動している会員の人たちもそれぞれ「こんにちは」と挨拶してくれる。雰囲気が良いことに好感が持てた。
 気を良くした私は週三回を目標にしたが、初めのころは一回しか行けなかった。しかし運動した後、身体が軽く感じる。最初、カーブスの階段で息が上がっていたが、少しずつ楽になって来た。そればかりではなく、何十年も会っていなかった人との出会いもあった。
 入会してまだ四か月、最近は週三回を目標に頑張っている。私の苦手は腕の筋肉が弱いところである。少し慣れてきた。でもまだまだだ。スタッフさんはしっかりと私たちを見ていてくれている。自分ではちゃんとやれていると思っても「はい、もう少し深く座って」とか「もっと胸を張って」とアドバイスをしてくれるので安心感がある。
 月に一度の計測で少し筋肉がアップしていた。うれしい! そういえば今までは朝起きたとき、足がだるかったのだが最近それがなくなった。
 最初の計測から四か月で、体重は増えているのにウエストは細くなっていた。「筋肉がついたのよ」と言ってもらってうれしくなった。そればかりでなく便通が良くなった。便秘ではなかったが毎日便通はなかった。食事の量が少ないからと思っていたが、そうではないようだ。食事も沢山食べられるようになってきた。今までは、意識して食べないと知らず知らずのうちに痩せてしまっていた。意識しなくても食欲が出てきた。やはり運動不足だったのだ。
 私の場合、自分一人ではなかなか続けることができなかった運動が、誰かに認められたり、仲間がいたりすれば続けられるのだ。もっと早くカーブスと出会いたかった。メンバーさんで「私八十五歳よ、カーブスに十年以上通っているのよ」とおっしゃる人がいた。とてもお元気でお顔も肌もつやつや、そんなおばあちゃんに「ワタシモナリタイ」。