私は体を動かすのが好きだ。中年になってから覚えたスポーツにハマっている。少しでも長く続けたいと、カーブスに通うようになって未だ1年に満たない。コープの三階の教室への階段はかなりきつい。コーチの元気な声とメンバーさん達の活気あふれる声が徐々に近づきスイッチオンになる。トントン、トントン。リズミカルな音楽に合わせていつものように体を動かし後はゆっくりとストレッチだ。今日もじっとりと汗をかいた。
 帰り道、ゆっくりしているコーチに午前中に行った「高齢者講習」の話をしたくなった。今思い出しても、冷や汗と苦笑いのてん末である。講習会場で起きた数々の間抜けな出来事には正直驚いていた。印鑑を名前の無い方で押した人、三時間前に使った印鑑を無くしてしまった人。S字カーブで脱輪した人は二人。私自身も引き戸を、ガタガタ押したり引いたりしたもののいてなかった笑えないポカやドジ。高齢者の事故を見聞きする度不安が過ぎるが、皆一様に反省の色を顔に出した。話し終わるとハツラツとした彼女は「そりゃ、ネタができたねー」と声を出して笑った。
 ネタ?テレビのお笑い番組で聞くことはあっても、日頃の会話で使わないこの言葉が印象強く耳に残った。忙しい日々を過ごしていたが、「ネタ!」は私の中でうずうずしていた。そうだこのネタを新聞に投稿してみようと、規定の字数で一気に書き上げ送信した。それから一週間は過ぎた頃、外出から帰ると夫が「新聞社から電話があったぞ!」と言った。「エッ、ホンマ!」と私はにんまりとした。台所の片づけを終えてから着信履歴に電話をかけた。担当者は若い女性だ。「投稿をありがとうございました。二、三週間の間に掲載しますが、詳しい状況を教えて下さい。」と丁寧だ。高齢者講習の年齢層や、車が無いと生活出来ない地域ですか等と聞かれ答えると「これまでは無事故で?」と怪訝そうな声。自分自身は長年の運転歴から自信があったが、他人からするとそうなのかなと納得もした。その後は意外と早く、十一月末の朝刊、ティータイム欄に「高齢者講習 安全運転誓う」と掲載された。字数の制限で添削されているが、なる程プロだなと感心した。他者のドジであればあれこれ書かず、インパクトのあるものだけを選んでいる。男女の区別や人数は省略され、遠い話ではなく車と自分との関係性が加えられて結論だ。
 あの日のカーブスでコーチが笑いながら言った「ネタ!」に端を発した思いがけない展開になった。書きたいと思った動機は、高齢者の領域に入ったこと。車は日頃の便利さのみならず、趣味の仲間と共に懲りない好奇心を満たしてくれた人生の相棒だったと気付いたのも確かだ。新聞に載ると沢山の人から反応を頂いた。遠方に住む友人からも「ご活躍ですね!新聞の投稿読みましたよ」と嬉しい年賀が届いた。勿論コーチにも報告したら自分の事のように喜んでくれ、話が弾んだ。
 ある時体調が悪くてカーブスは休むことにして、買い物だけにコープに出かけた。エスカレーターで3階に行くと、集団のザワザワが聞こえてきた。カーブスが空くのを待っている列を遠目に確認。元気もりもりの声がとても羨ましく思えた。私は不調であのグループには入れない。淋しい思いと同時に今日は無理だが基本的にはあのお元気印の中の一員であることが誇りに思えた。
私がカーブスを選んだのは元気で卓球を続けたいからだ。毎日ラケットを振っても飽きないし止めたいと思ったことは一度もない。試合会場で知り合い親しくなったTさんは他市のチームだが最近チームを組むことになった。話していると何とカーブスの先輩で5年目になると知り驚いた。体重は5キロ減らし、膝の痛みが消えた。そんなことで驚いている場合ではない。私が出来ない腹筋を毎日何も使わずに30回もしていると知ってカーブス1年生の私はTさんに最敬礼をした。卓球もカーブスも先輩のTさんにはこれからも刺激を一杯もらうことになるだろう。
 年を重ねることは皆一様で贖えない。しかしその生き方は自分自身に委ねられているといえる。良いと思うことを実行に移す。それにはコミュニケーションが必須の条件だ。充実した生き方を望むスポーツクラブの面々はしかり、カーブスも好条件が揃っている。はつらつとした人生の先輩との出会いの場、その起爆剤となるはち切れそうなコーチ達。いつでもメンバーさんの味方ですよと笑顔をくれる。
 ネタ!はどこにでも転がっている。気づくか気付かないか。見えない物を気づかせて頂きありがとうございました。高齢者といえども、カーブスで足腰を鍛えてこれからも愉快なネタを仕込みに出かけるとしよう。