四十年仕事、家事、子育て、親の介護を一人何役もこなしながら、ほっとしたら六十四才。すごいおばあさんだわ!と鏡の中の自分をじいっとながめた。全面が写る鏡の前で、上から下までなめるように見た。生まれてはじめて自分の裸体に近い姿を、人の体でも見るようにじいっと見た。主人の体を見ては、少し食べすぎではないか、お腹が出て来たよとか言っていた私に、
 「自分の体をよく見てみぃ。」と主人からはじめて言われてしまった。貴方程でもないわ、と思いつつも、自分の体をじっくり見た事のない私はおそるおそる、誰もいない時、見てみたのだった。昔のおもかげは顔だけで主人のことをよく言えたものだと、自分ながら情けなくなった。
 「よし、スポーツジムへ行く。食事にも気をつける。」等々、あらゆる事をやってみた。しかし、ひとつも長続きはしない。よく続いて数ヶ月だった。友達や周囲の者は、またかと言わんばかりの顔。
 ただ一つ続いていたのは紙芝居をすることだった。幼稚園やいろいろな所で週三回は演じさせてもらっていた。十六年続けて来れたのは、体力以外の何ものでもなかった。しかし、師匠から「筋力をきたえていないと数多く一度に演じられなくなるよ」と言われていた。でも私は大丈夫だとタカをくくっていた。
 

 そんな時、カーブスという字が目に入った。三十分で筋力がつくという事が、私にとって何よりのプレゼントだった。早速私は申し込み、体験をした。体育大学出身の私は、これ位の運動ならたいしたことはない。これなら私も続くという自信があった。月に十回位は行けると思いスタートした。
 しかし、現実は甘くなかった。理由を自分なりにつけては行かなかった。友達からは、「あんたがスマートになるか、体重が減るのを見たら私も行くわ。」
と、半分ばかにしたような口ぶりで言われた。安の定続かず、お金がもったいないと思うようになりやめるはめになった。周囲の人からは「やっぱり続かんなあ!」と言われるばかりか、かかりつけの医者にまで笑われてしまった。
 何を言われてもしかたがないと思った。でも、紙芝居だけはいつもの通り続けられた。そして、やめて三ヶ月程たった時、紙芝居を続けて十演目やらねばならないイベントがあった。何も不安もなくやりはじめると、五演目から胸が苦しくなり声が出なくなってきたのだった。水を何回も飲みながら、何とかその場をしのいだ。おかしい!と思い三十分歩いてみた。とてもつらく次の日は足がパンパンになり、湿布薬をペタペタはってマッサージに行ったり、ふろに何回も入ったりした。

 
 私は大好きな紙芝居を演じられなくなるのかと、ふっと不安になった。なぜこんなにも演じられなくなったかと思った時、師匠の言葉を思い出した。カーブスをやめたからだと気づいた。そして、一冊の本に出会った。
 「自然で無理のないダイエットをしなくては続かない。筋力をつける運動、八分目の食事を続けること。」と。私はカーブスに再度申し込み、目標をたてた。月十回は必ず行く。食事は定時に八分目にすると決めスタートした。やめてはじめてわかったのだった。気まぐれではじめてもだめだという事を思いしらされた。
 私はカレンダーに時間の都合のつく日に赤丸をつけた。十回というのは簡単なことだった。毎日、それを見て運動着の入ったバッグを車の中に入れた。その内、毎日バッグを朝の内に入れるようになった。不思議なことに月十回は楽にできるようになってきた。
 六ヶ月過ぎた頃からか、紙芝居を十演目以上続けてやっても平気になってきた。すると友達の一人が、「背中のもっこりがなくなってきてるよ。」とか、周囲の人達からも、やせたわねえ、と言われるようになってきた。体重が減ってきたわけでもなく、私も不思議に思った。その時、TシャツのサイズがLサイズからMサイズになっていた。私の体の変化を見て、友達が次々とカーブスに行くようになり、私は何枚ものTシャツを頂いたのだ。一枚目はLサイズ、二枚目からはMサイズで楽に着れた。

 
 しかし、体重も体脂肪も減らず、今ひとつ私は満足しなかった。その時、プロテインのよさを教えてもらった。タンパク質の入った食物を好まない私にとっては飲んだ方がよいのではないかと思い、はじめてみた。すると、小さな変化が出てきた。体脂肪が月0.5ずつ減り、体重も三ヶ月に二キロ位減ってきたのだった。
 再挑戦して一年たってわかった事がいくつかあった。
 一つ目 続くには少し無理な目標をたてる
 二つ目 小さな変化を見のがさない
 三つ目 ダイエットは無理なく続けられる八分目を守る
 

 そして、一番大切なことに気付いた。体重を減らすことが重要ではなく、健康な生活ができている今の状態を保つ為に、カーブスに行くことを続け、苦しくやるのではなく、一日の生活のスケジュールの中に入れ、楽しみながら通うことなんだと。私はカーブスの仲間達に笑顔で言う。
 「今日もここに来れる体力があり、トレーニングができる自分に感謝し、1日のはじまりがカーブスだと。」
 
 先日も八十才位の方がカーブスの職員さんに言っていた。
 「医者に言われたんです。北陸のような寒い所で生活している者は、冬の間に病気になる。家でテレビをみてじっとしていて、いつかは車イスになる。歩ける間はカーブスに行けばいい。やれるトレーニングを無理なく続けること。車イス生活がいやだったらカーブスへ行けとね。私でも大丈夫でしょうか。」と。
 「少しずつやってみましょ。お医者さんが言われたのなら、大丈夫ということです。」と。
 その方は何とも言えない笑顔になり、
 「嫁がここに買物に来るので乗せてきてもらいます。」と言って帰られた。後日、若い人達の中で楽しそうにトレーニングしておられる姿をみて、私もあと十五年はできるなあと心でつぶやき、ニヤッと笑ってしまった。