仕事を辞めて二ヶ月余り過ぎた日、新聞と一緒に配達された折込チラシの中にカーブスのチラシを見つけた。カーブスとの出会いだった。
その年のゴールデンウイークに夫と共に北海道を二週間かけて車で一周した。愛犬も一緒にフェリーで北海道に渡り、自由気ままに温泉と岬を巡る旅。
出発前に決めておいた宿に向かう途中は気の向くままに車を停め、見たい景色を堪能し、美味しそうな店を見つけて土地の自慢の昼食を取りながら進む。気楽で本当に楽しかった。
その時思ったのは、「元気なうちは仕事を一生懸命頑張るのも一つの生き方だが、元気なうちに楽しい思い出を一杯作るのも一つの生き方」という事。
私は後者の、元気なうちに楽しい思い出を一杯作る方を選んだ。仕事が特殊な事でもあり、私が声を上げなければいつまでも務められたかも知れないが、連休が明けて出社した会社に辞表を提出した。
「七月末で一身上の都合により退職します」
仕事を辞めてからは、それまでの時間に追われた生活ではなくなり、一日をのんびり過ごせるようになった。私が仕事に出ている間に、ハッピーリタイヤしていた夫は、家事をする事に慣れてくれていたので、二人で家事を分担した。
洗濯は私、掃除は手が空いていて気づいた方、食事の下ごしらえは夫の仕事、味付けをして煮る、焼くは私の仕事になった。
そんな生活パターンが定着した頃、私は自分が少し太り気味である事に気づいた。仕事に出ている時は間食しないが、家にいると、暇があれば冷蔵庫を開いて何かつまめる物を探してしまう。
二人で声を掛け合いお茶にする時も、必ず何かしらを食べる。食べなくても良いのだが習慣になっていて、ついついつまんでしまう。元気で楽しい事を沢山したいと思って仕事を辞めたのに、運動不足で体がなまっている上に太って動けなくなったら、「何をかいわんや」である。
心臓に持病がある夫が倒れた時にも、私が元気でいなければ看病もできない。入院したら病院に見舞う事もできなくなる。そう考えていた矢先のカーブスのチラシであった。
それから一週間、チラシを出しては迷い、考え、片づけては、また引っ張り出して迷いに迷った。若い時のように即決即断とはいかない年齢になっている。
新しく始めた事で、何か不都合な事が起こったらどうしよう。時間の余裕はあるが、本当に通えるだろうか。続けられるだろうか。迷っているうちに気がついた。続けるのは自分である。自分さえしっかりした意思を持っていれば、続けられるのではないかと。
幸いにも歩いて、十二・三分の所にあるらしい。意を決して電話を取った。
あれから七年五か月になる。今では友達の輪ができて楽しく通っている。コーチも若い子ばかりである。まぁ、当然か。元気で明るく、若いメンバーさんの話も、年配のメンバーさんの話もニコニコして聞いてくれて、力づけてくれる。
絶対にマイナスの事は言わない。朗らかな気のいいコーチばかりである。話しをする事が気転換になるし、脳の活性化にも繋がる。毎日行くところがある事で、生活のリズムができ張り合いもできる。私にとっては良い事づくめのカーブスである。
私自身も体力がついてきたようで疲れを感じなくなっていた。カーブスに入会して一年半程経った頃、友人に誘われて、生れて初めてテニスをする事になった時も迷ったが、カーブスでの運動が自信に繋がって、始める決心がついた。
午前中は友人とテニスに興じ、午後はカーブスのワークアウトで汗を流し、夕方は体調の悪い夫に変わりペットの散歩に出かける。動き回っても疲れたとは思わなくなった。
体の変化もついてきて、入会時は57.1kgだった体重は48.7kgになったし、お腹周りも97cmから84.5cmに落ちた。体脂肪も減り、骨格筋率は増えた。何より自分で変化が感じられた。疲れたと思わないから、夫から頼まれた事は何時も気持ち良く引き受ける事が出来る。
やればやっただけの効果は望めるのだと実感できた。自分へのご褒美はちゃんと貰えるのだと。
夫には、「近頃はお前の方が俺より力があるなぁ」と言われている。自分でも「脂肪が無くなってきたなぁ」と思えるようになった。これで何時夫が倒れても大丈夫だと思うが、いつまでも元気でいてもらうに越したことはない。
私もやりたい事ができ、テニスに興じ、毎日を元気に過ごしてこそ、早めに仕事を辞めた甲斐があるというものだ。
楽しい思い出を一杯作りながら、美味しいものをお腹一杯食べても太らない体作りができるカーブスに通い、これからの毎日を楽しく有意義に過ごしたいと思うこの頃である。