還暦を過ぎた頃より、「気になること」が2つ。
1つめは、体力の低下とともに筋肉量が著しく減少したこと。しかし、「忙しい」を理由に、そのまま放置した。二の腕やふくらはぎの筋肉を触ると、洋菓子に例えれば「マシュマロ」、和菓子でいうと「羽二重餅」だ。これまで数十年、常勤を理由に、健康づくりに関心を向けなかったツケが、今頃、回ってきた。
2つめは、よく給油するガソリンスタンドに行くと、隣接した建物にペナントが設置されており、それが、なぜか目に留まること。「女性だけ」「健康体操」という大きな文字も見える。一度、体験しようか、と迷う。しかし、「いつでも、できるんちゃうか」という囁き声がどこからともなく聞こえる。筋肉と同じように、気持ちも揺れ続けた。
最近になって、女性だけが、教室に集まって、30分間どんな体操をしているのだろうか。そんな疑問がふつふつと込み上げる。わが家のカレンダーに、体験する日を勝手に決めて、丸印を大きく入れた。
緊張しつつ、初めて足を踏み入れた教室は、温かい陽光が差し込む。床には、楕円形状に配置されている筋トレ用のマシンがあり、すぐさま、動かしてみたい心境に駆られた。
正式に、「カーブス」に入会したのは、コロナ禍の2020年10月だった。
扉を開けると、即、20代のコーチ二人から、「こんにちは。ヨシさん」と声が掛かかる。彼女らは、12個のマシンを安全に使用してもらうための点検を行いながら、腹圧の入れ方と膝や腰への負担の有無を確認し、メンバー全員に、「痛みはないですか」と問いかける。私の不安は、安心へとつながっていった。
各々が、年齢相応のペースを保ち、汗が滲む程度の筋トレを30分間継続する。その途中で、幾度か、脈拍測定。その数値を基準に、運動量が適切かどうかを確認し、コーチに報告する。1つ1つのステップがわかりやすく、慣れるのも早かった。
軽快なリズムに合わせて、全員が息を弾ませる。それを、見るだけでも活気が伝わってくる。私は、年甲斐もなく、その様子に触発され、マシンを大きく素早く動かし、腹部や四肢の筋肉を意識するようになった。体中が熱くなる心地よさ。
教室壁面の掲示物には、筋トレ効果が図表やイラストで示されている。免疫が高まること。基礎代謝が上昇し、太りにくい体づくりができること。睡眠の質が高まり、メンタルヘルスにも影響すること、などが目白押しだ。それらから刺激を受け、益々、やる気につながった。
すぐに1ヶ月が経過する。参加しているメンバーが、非常に少ない雨天の日だった。ガランとした周囲を見回し、このまま継続できるのだろうかと、ふと心配になった。
老若男女を問わず、新規チャレンジには、「がんばろう」と強い意志を持ち、努力するものである。ところが、現実は、途中で駄目になることが多い。私も若かりし頃、派手な花柄の水着を数枚用意し、達成目標を決めたスイミングも、継続は出来ず仕舞い。ゴルフを始めた時もそうだった。日常生活において、健康的な行動を習慣化させることは、高いハードルになる。
この先、年末に向けて寒い日が続くだろう。そうすると、行きたくないわ。何とか、理由を付けて休もうか、と思うものだ。いざ、やり始めても、はたして、いつまで続くのやら。いつ見ても、ふくらはぎの筋肉は揺れっぱなしだし......。
そこで、筋トレを長期にわたり実践するために、自分に鞭打つ「努力はしない」と決めた。「がんばること」は、しんどい。だから、挫折と後悔の繰り返しになる気がする。
では、効果が認められている筋トレを、継続するためには、どんな手立てがあるのだろうか、と思いを巡らせる。
教室内に多くの仲間がいたとしても、誰を気にすることなく、挨拶もおしゃべりもせず、固く目を伏せながら、黙々とマシンを使って、30分間の筋トレをする。途中で、水分補給をしながら、ひたすら負荷を加える。
終了後は、クールダウンのために、各自、10分程度のストレッチが推奨されている。しかし、その時間をも惜しむ。目立たぬように無言で、部屋を急ぎ足で退出する。
私とほぼ同年代の女性に、注目するようになったきっかけは、普段着(日常着)で運動している姿を見たときだった。連日、同様の恰好で、額に汗を滲ませる。何回も洗濯を繰り返したであろう、ジーンズを大事に着用している様は、自身の生き方を醸し出しているかのようだ。
定例の時間に、控えめな色合いの服装で、決められた規則的な運動を、脇目も振らずに、ひたすら貫く。芯の強さを見たような気がした。
心の中で合掌しつつ、当分の間、あの人を待ち伏せしてみよう。何とか、機会をみつけて声掛けし、生きざまと魅力を深掘りしてみたい。そして、忘れられないあの声を、もう一度、聞いてみたい。ステキな出会いに感謝。すると、肩の力がスーと抜けていった。
運動を継続させるために、仲間の変化をみて、人生の学びを得ることにしよう。
B子さん、「黒色ウェアーに、鮮やかな赤色のマニキュアが似合ってる」。C子さん、「返事の声が明るくて、カワイイ」。D子さん、「マシンを早く大きく動かして、カッコいい」。E子さん、「筋肉、やわらかい。すごいわ」。日々の変化に気づくことは、私の楽しみになった。
加えて、カーブスに参加した日は、「私はよくやっている」というセルフトークをするようにした。そして、運動後の気持ちを感じる。この年齢になって、筋肉を伸縮すると、気持ちいい。それらを、只々、繰り返そう。
がんばらない健康教室は、メンバーやコーチに支えられ、何とか、18ヶ月継続中。体組成が整い、筋肉の質が高まることを願い、小雨の今日も、鼻歌まじりに真っ赤な自転車を漕いで姫たちに会いに行く。
佳作
「私のCurvesこぼれ話」
カーブスって
どんな運動?
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