年が明けると家の電話が必ず鳴る。ゆっくりと受話器をとるとサプリメントの新商品の案内だった。とりあえず話を聞く事にした。興味をそそられる内容の商品。それに続く「定期コースなら割引価格」「いつでもやめられる」「初回は送料無料」。常套手段であった。私は瞬時に目をつぶった。そして、いりません。副作用が出ます。もうこりごりです。受話器を置いた。私の断わり方も決まりきった返答になる。
カーブスに入会して七年目になった。自分でも自覚するほど身体がひきしまった。ストレッチやマッサージをすれば効果が出やすくなったのも感じる。しかしこの間に私は四十代から五十代になった。からだのサイクルが少しずつ変化してホルモンのバランスが崩れてきた。手間をかけてやらないと均整がとれなくなった。からだの体質が変わったなと特に感じたのは、この二~三年のことだ。
若い頃から腰痛と坐骨神経痛に悩まされてきた。しかし、それに加えてこのところの様々なアレルギー反応や副作用にはかなり驚き、とまどっている。
化粧品では吹き出物が出ることがある。初めて使うものは注意を払う。キウイフルーツを食べるとのどの異和感と目・鼻・耳の中の痒み。以前は一個をペロリと食べていたが、今ではスイーツに飾りで添えられているほんの一切れでさえも症状が出てしまう。日焼け止めにいたっては、肩から手首の範囲だけに膨丘疹が出るようになった。顔や足や手の甲は普段どおりに塗っても問題ないのが不思議だ。何年かぶりにドラックストアで白髪染めを購入した。念のためパッチテストを二回実施して使用したのに、頭部の痒みと赤い湿疹が出てしまった。幸い顔や首、手指には異常がなかったので接客業の今の仕事には支障がなくてホッとした。
それらの症状は短かくて数十分、長くても一週間で治まる。市販薬で治療できるし、病院に受診しなくてもぶりかえすこともなかった。
けれどもやっかいな事になってしまったものもある。それはアンチエイジング効果の高いあるサプリメントだ。新聞広告やテレビコマ―シャルでお馴染みの知名度のある商品でもある。リピーターも多く、私と同年代の話を聞いた時は実に現実味を帯びていて私の心はすっかり魅了されてしまったのである。
ところがのみ始めて一ヶ月経った頃に副作用症状が出てしまった。人気商品はさすがだなと思うほど好調を感じていたのにだ。
ある日の事。極少量の不正出血に気がついた。自分自身では閉経したと思っていた矢先の事だった。その二日後にまた少量の出血があった。しかも一日に数回みられたので、ちょっとおかしいと思い始めた。子宮頚ガンの検査を受けてからまだ三ヶ月しか経っていなかった。検査後に発病したのだろうかと考えて婦人科に受診してみることにした。医師からはホルモン剤を服用しているかとたずねられたのでサプリメントならのんでいると答えた。すると医師は子宮体ガンの検査を歓めてきた。なんだか大ごとになってしまったと思った。気が小さい私は涙が出そうになった。
医師から説明は受けていたが子宮頸ガンの検査に比べて検査後の出血が多い。こうして目の当たりにすると落ち着いてはいられなくなってしまった。恐怖心が日増しに強くなった。暑くもないのに変な汗が出たり、吐気がして食事がのどを通らなくなった。こんな時は頼みのカーブスに行ければ心強かったと思う。ところが天候は不良。それまでの空梅雨から一転して小雨が続き、自転車で通う私はどうにも足止めをくってしまった。夜はなかなか布団に入る気になれなかった。古いDVDを流してみたり、ふくらはぎを懸命にマッサージしたりと何かしていないと気持ちがザワついて身がもたない感じになった。
検査後四日めだったと思う。私はなぜか医師の言葉を思い出した。「ホルモン剤のんでる?」。というあの問いである。のんでいるサプリメントをやめてみたらどうなるだろうかと考えたのである。
驚いた。不規則に続いていた出血がその時を境にピタリと止まった。このサプリメントは食事だけでは不足しがちな栄養素が手軽にしっかり摂れるといわれる代表格だった。私はこの食品じたいとても好きだし、だから商品にも親近感がわいた。当然サプリメントで摂ることにも何ら抵抗はなかった。しかし私の身体の中では許容範囲を超えてしまい、あろう事か刺激物に変わってしまったようだ。腹立たしさはなかった。それより安堵感の方が勝っていた。肩の力が抜けるとそれまでの吐気も口の中の苦さも落ち着かない気持ちも一気に吹っとんでいった。
検査結果は陰性だった。サプリメントをやめたら出血が止まったことは医師に話しておいた。帰宅した私は五日間で三キロ減ってしまった体重をとり戻すかのように、目にはいった食べ物を手あたりしだいに口の中へ入れた。
私は猛反省した。これまでの私はあれがいいと聞けばすぐに申し込み、こっちもいいと言われればまた注文するというのを何度となくくり返していた。とにかく焦っていたと思う。主人からもいろいろ手をだすのをやめたら?と言われ、心底この言葉を反すうすることになった。
確かに自分に取り入れた方が良いサプリメントもあるだろうし、私の身体にちゃんと合うものもあると思う。しかし時間をかけて心地よく自分に馴染んできたものを私はきちんと知っていたはずだし意識していたつもりだった。にもかかわらず世間の情報と自分の現状には勝てなかったんだと思う。いくつになっても自分に期待を寄せることはまちがっていないと考えていた。その結果が招いた一連のできごとだったと思う。
今回のことでもっと自然に取り組んでいけるものが私にはあるじゃないかと再考した。
それがカーブスだと思う。
手を横にぐっと伸ばしてみる。背筋を伸ばして腕を前に引っ張ってみる、じんわりと筋肉にかかる負荷で効いているなと思わず実感できた。今のところこの"じんわり"が私には良いみたいだと確かに認めざるを得なかった。
何日かぶりにカーブスのドアを開けた。軽快さがうれしい。見慣れた風景に触れてみて、平凡を嫌うことがぜいたくだなとしごく思ってしまった。平常の生活に安らぎ、ありがたさをぐっとかみしめた。コーチの笑顔もしかり。メンバーさんとの会釈もしかり。あの時のあの気の抜けた炭酸飲料のような生活はもう二度とごめんだとも思えた。
身体の栄養補給はこれからもっと必要になってくるだろうけど、経口サプリメントでの補給は今しばらくは考えないでおこうと思う。
心にからだにじんわりと染みこむ時間こそが今の私に似合うサプリメントではないかと思い知らされた。
佳作
「じんわりを探しあてて」
カーブスって
どんな運動?