その日は雨だった。スーパーで買い物をして重い荷物を持って傘を指し、レインシューズをはいてヨタヨタと歩いていた。どこから現れたのだろうか。若い女の人がスーと寄ってきて「腰とか背中とかどこか痛いとこありませんか」と言った。
私は一瞬「えっ」と訝しがった。
背中が丸くなり、お腹はポッコリと出て、なんとも奇妙な体型になってきている。その上、最近は膝の後ろ側が気になってきていた。まさにそんな私の心の内を見すかすように、絶妙のタイミングで声を掛けられたのだ。
その人は言った。「今なら無料で体験が出来ますよ。ちょっと見てみませんか。」なんだか私は暗示に掛かったようになり、後についていった。
階段を上り中に入ると、マシーンで何人かの人がやっているのが目に入った。
声をかけてくださったのは店長さんだった。身体の具合を尋ねられ、カーブスの仕組みを聞いた。優柔不断の私は、その時決断が出来ず帰ってきた。家で夫にカーブスのパンフレットを見せて説明すると「お前の体には、筋肉を鍛えるのはええことやから、やったらええん違うか」と言った。運動らしい運動はなにもしてないし、体力がどんどん衰えてきている私の体を心配してくれていたのだ。夫に後押ししてもらったので自信がつき、あくる日に早速申し込んだ。
何よりうれしいのは、私の一日の動きの中にカーブスが存在していることだ。自分の時間の都合が付いた時、三〇分間だけやればいい。入院している九十六歳の義母の食事介助に昼、夜、行っているので、それを外すことは絶対出来ないからだ。
義母の食事介助の後、カーブスで三〇分間筋肉トレーニングして体をリフレッシュ、そこから買い物に行くことが出来る。勿論その逆も可能で、どの場所も自宅から歩いて十分以内の範囲にある。
十二月からカーブス通いが始まった。若い人からご年配の方まで実に老若いろいろ。楽しくおしゃべりしながらの人、もくもくと身体を動かしている人。親娘(娘さんは十代と思われる)で来ている人、プロポーション抜群の体を、さらに鍛えようとしてワークアウトに取り組んでいる人、八十歳代の方が「階段が上れるようになってうれしい」とマイペースでニコニコ頑張っておられる、など実に様々。近所の方もおられ、こんなにも身体に気をつけておられる人が多いのかと目から鱗。私は今まであまりにも自分の体に無頓着過ぎたなと反省した。
始めのうちは、筋力トレーニングから有酸素運動の移動が早くて、慌ただしく、こんなに短時間で効果があるのかと思ったが、慣れてくると移動もスムーズに出来、自分の体力に応じて、調子がいい時は深く、調子が悪い時は浅くと加減出来る。自分が好きなマシーンを選んでするのなら、同じ筋力ばかり鍛えるのに片寄ってしまうだろう。「この機械、もう少ししていたい」と思うこともあるが「チェンジ」の声で移らないといけないので、満遍なく体の筋力を鍛えることが出来る。
十二台のマシーンを終った後のストレッチが又いい。簡単に出来て、筋を伸ばしているという感覚が意識出来る。テレビを見ながらでも、駅で電車待ちしているわずかな時間でも何時の間にかストレッチをやっている。
目標は「腹筋をつけて猫背を改善すること」。三ヶ月してみて目標が達成出来たとはとても思えない。そりゃそうだろう、長年ほったらかしにしてきた体にそんな簡単に筋肉が付くはずがない。でもマシーンに向かうと鍛えているという手応えを感じる。カーブスに行くことが楽しい。時間が出来れば行こうと思う。世間のニュースに疎い私は「筋トレ」は、男の人がするものだというように思っていた。こんなにも世代を超えた女の人がしてることに驚きだ。カーブスのパンフレットで「女の人こそ筋力トレーニングが必要だ」と知った。全くそうだ。子供を産んで、閉経後どんどんカルシウムが奪われ、骨がカスカスになって骨粗鬆症になる率が高い。私自身その典型で痛い背骨の圧迫骨折を数年前に経験している。(それで猫背になったのだが)
三ヶ月経った現在、店長に声をかけてもらって良かったと感謝している。筋肉を鍛えるのは毎日のことで、一日にたくさんやったからといって、筋力が増えるものでもない。細く長く続けることが大事。家で自主トレ出来れば一番いいが、私の性格ではとても無理。カーブスに通うことによって可能になる。
二階にあるカーブス会場、「何をやっているのかなあ」ぐらいで、自分から進んではおそらく来なかっただろう。外から目立たないのがいい。(勝ってなものですが・・・)
ささやかながら自分の体に投資して、自分のために時間を使って、自分の身体を鍛えて義母の介助に笑顔で行こう。
近ごろ友人が「若くなったん違う?」と言ってくれる。「えっホント!うれしい」と答える。カーブスで若い人から英気をもらい、姿勢に気をつけて、気持ちが前向きになってるから、チョット違うのかなと心浮き立つ。
カーブス入会の時にいただいたピンクのTシャツが似合う体型になるのにはまだまだ時間がかかるだろう。猫背を改善するには、筋力をつけるのが最善の方法と信じて、細く長く続けよう。一年後背筋を伸ばして颯爽と街を闊歩する自分の姿をイメージして!