私は、もの凄く不器用である。もう、五年も前になるが、「カーブス」に入会する時も、
(なんか、どうしてもできないことが、あるんだろうなあ......?)
 と、心配した。

 実際に入会してみて、「どうしてもできない」大きな問題はなかったが、「小さな心配事」は、やっぱりあった。その「筆頭」が、「計測」の時の、
「はい! 次は、おへその下、『指三本』の所!」
 だろうか? 

これが、わかるようで、よくわからない......。
 計測をしてもらう時に、指三本をおへその下にきちんと揃えるのは、結構、難しい。
(こ、これで、いいんだろうか......?)
 などと、首を傾けている内に、
「はい! 次!」
 と、次の箇所、「おしりの計測」に移ってしまう。
「あ、あのお......、今ので、よかったんでしょうか?」
などと口を挟むのも、申し訳がない気がする。

 また、「マシーン」と格闘している時、時々、
「はい! 『伸ばしきる手前』で、止めて!」
 と、声を掛けられる時がある。これも、ふと迷う「フレーズ」だ。
(『伸ばしきる手前』って、どこ? 一体、いつ?)
 考えているうちに、「チェンジ!」のコールが鳴る。

 今となっては、もう誰にも聞けないが、不器用な私には、どうしてもうまく出来なかったことが、いくつかある。その一つが、赤ちゃんだった息子を、「おんぶ」することだ。
 
 今では、ほとんどの母親達は「前だっこ」をしているが、私が息子を産んだばかりの頃は、「背中におんぶ」が「主流」だったように思う。
 
 当時でも、既に、おんぶは古臭いイメージがあったので、乗り気ではなかったのだが、赤ちゃんを育てるのにはやらないわけにはいかない。ところが、この誰でも簡単にやっているように見える「おんぶ」が、存外難しいのである。
 
 まだ、「おすわり」が出来ない赤ちゃんは、「天井」を向いている。
 普通に考えたら、母親は赤ちゃんに平行になるように、背中をぐっと反らせなければ、赤ちゃんを背負うことはできないではないか?
 フィギュアスケート「金メダル」の「荒川静香」さんの、「イナバウワー」のように......。

「イナバウワー」なんて、勿論できない私は、赤ちゃんの上に背中から被さってしまうではないか!
(赤ちゃんが潰れたら、『虐待』だなんて言われるんだろうか?)と、真剣に心配した。
 
 しかし、「赤ちゃん」は、成長する。私が、「イナバウワー」に「格闘」している間に、しっかり「おすわり」が出来るようになった。
 それと共に、私の「おんぶが出来ない」問題は、「解消」した。
 私は、「おんぶが出来なかった」なんてことは、全くなかったような顔をして、次なる「課題」に、立ち向かって行かなければならなかった。
 「子育て」は忙しい。いつまでも、「おんぶ問題」を振り返っている暇はなかったのだ。

 昨年の三月に結婚式を挙げた娘が、秋の終わりに、「家」を買った。
 (北区の「王子」)である。娘夫婦は、私と「息子」を「新居」に招待してくれた。
 
(王子の北口)駅前の「カフェD」で待ち合わせをする。
 私は待ち合わせの時は、相手よりも、必ず早く行く。待ち合わせ場所のカフェで、本を読みながら、「相手」を待つのが大好きだ。
 
この日も、待ち合わせ時間の一時間前に、「カフェD」に到着した。入ってみると、フロアが、中々広い「カフェ」で、しかも、注文も最新式の「機械」が導入されている。

「お先に、お席をお取りください!」
 と言われて、私は、フロアの奥の方に、席を取った。
 前方の席は、かなり埋まっていたからである。
「ただ今、到着! カフェDの、かなり後方の、『モニター』の下の席!」
 と、娘にメールをした。すると、すぐに、
「さすが、お母さん! 早い! 駅前で、お寿司を買っていくから、待っててね!」
 という返信があった。

 私は、コーヒーを飲みながら、おもむろに本を広げた。周りからも、芳しい「コーヒーの香り」が漂って来る......。はずだった......。ところが、少し、様子がおかしい。漂って来るのは、「コーヒーの香り」ではない。何やら、「お蕎麦の匂い」のような......? 隣に、慌ただしく座った夫婦が、
「お父さん! 早く食べてね!」
「ん......? 時間が、ないのか?」
 などと言い合っている。

 私は、真上の「モニター」に目をやった。
「○○庵」と書かれたモニターの画面には、出来上がった「お蕎麦」の注文番号が、次々と表示されている。
(こ、ここは......、『お蕎麦屋さん』のフロアだったんだあ......!)
 なんで、カフェとお蕎麦屋さんの「仕切り」がないんだ!

「不器用」な人間は、「ドジ」を踏む。
 不器用とドジは、「セット」になっているらしい。
 こんな私が、多少の「疑問」は抱きつつも、「カーブス」を、五年も続けて来られたのは、まさに、「奇跡」に近い。これは、コーチと、メンバーさんたちのおかげだ。
 
「続ける」ということは、とても難しいことだ。が、私にとって、「カーブス」を続けるということは、とても「自然な」ことだ。不思議なくらいに、やめる気がしない。
「おへその下、指三本......! ここだっ!」
「膝が伸びる手前で止める! よしっ!」
「小さな心配事」が、少しずつ解決していく。私も少しずつ、進歩しているのだ。