私にとって二度目になるカーブスの門をくぐったのは、今年の2月15日だった。
もっとも初めて行ったのは、もう10年以上前のことで、今回思いつくまで、カーブスのことなどまるで思い出すこともなかったのだが。
それが再び行くようになったのは、私にとってショックな出来事があったからに他ならない。
2月4日、立春の日のことである。たまたま市の協賛する『介護予防教室』の講習を知り、訪れた時だった。
私は前年12月に80歳の誕生日を迎えていた。我が家は86歳になる夫との二人暮らし。最近、とみに弱ってきた夫のことが気になっていた。
11年前に心臓の大動脈弁置換術を受けて以来、食事や日々の生活には十分気を使っているが、年には勝てず、最近の夫は、ボタンをはめられない、紐が結べない、など細かいことがだんだん出来なくなっていたし、息が苦しくなると言って、うつむいての用事もしなくなっていた。
私が手を貸すことが増えて来ていたが、そんな私も老齢で血圧は高いし、胃も弱く薬は離せない。
これから先、ますます年を重ねていくことを考えると暗澹とした気分に陥るのだった。
でも、落ち込んでばかりいても解決にはならない。今後を考えて、まずは私が元気でいなければならない、元気で夫のことをしてあげられるようでなければいけない。
頼りにしたい子供は男の子ばかり三人。近くにいるけれど、みんな企業戦士で忙しい。お嫁さんたちも子供が小さかったり、働いていたりと、あてにならない。
いつの日か世話になる時は来ると思うが、その日まで、出来るだけ自分たちのことは自分たちでやっていきたいと思っての、介護予防教室の参加だった。
今は廃校になった短期大学の教室で、その講習会はあった。
当日、講習のある二階の部屋に行こうとして、エレベーターもエスカレーターもないのに気が付いた。
それはそうだろう。若い人たちのための学校だから、そういったものは必要ないのが当然だ。でも、結構段差のある階段にも手すりはついてなかった。
その階段を、私は上がれなかったのである。愕然とした。なんで?どうして?
私ってこんなに体重が重かったか、と一瞬考えて、いや、そんなことはない、身長161センチで体重は57キロだ。
多少、小太りではあるが肥満ではない。
なのに上がれない。足そのものが自分の身体を持ち上げられないのである。
階段を這って上がろうかと思ったが、誰かに見られるのも恥ずかしい。
横の壁にもたれて、何とか上がったもののショックだった。
どうしてこんなことに。私は1日8000歩を目標に雨の日も風の日も休まず歩いて13年。その内、1年ほどはお膝を痛めて歩かなかった時もあるが、ずっと続けていた。だから階段が上がれないなどということはにわかには信じられなかった。
普段、病院に行ってもデパートに行っても、それなりにエスカレーターやエレベーターは設置されている。
何の躊躇いもなく、それらを利用していて、自分が普通に階段を手すりなしで上がれないなどとは、考えたこともなかっただけに、それは大きなショックだった。
講習会が終わった時、お話をしてくれた理学療法士の女性に、先刻のいきさつを興奮気味にすべて語った。
彼女は私の太腿の前後を触ってみて一言、筋肉が痩せています、と言った。続いて、歩くだけでは筋肉は付きません、負荷をかけなくちゃダメです、とも言った。
そして椅子に座って片方ずつ足を上げる体操を教えてくれて、これを片方10回ずつ3カ月、騙されたと思って続けてみてください。筋肉がついてきて楽になると思います、と励ましてくれた。
以後ずっと、それは続けているが、どうもそれだけでは心もとない。もう少し効果を上げるために筋トレ専門の体操教室を探してみよう、とネットでいろいろ検索してみた。
80歳という年齢に相応しく、あまり無理のない、少々時間はかかっても続けていけるところを。
そして、出来れば通うのに負担の少ない我が家の近くで。
そうして調べていく過程で思い出したのが、カーブス今治ワールドプラザ店だった。
でも、ここは以前行って1日でギブアップし、ほうほうの体で逃げ帰ったことがある。
理由は、たった30秒で次の器械に移るのが、年のせいもあってモタモタし、ろくに使わないまま次の器械に移らなければならないのが苦痛だったからである。
しかし、今回、行くことに決めたのは、他ならぬ友人の勧めがあったからだった。
「モタモタしていたよ。私も。でも、何か月か続けているうちに、だんだん早く出来るようになったよ。だから大丈夫。続けてみて」
私より2歳年下の彼女は笑って言った。
あー、そうなんだ。『継続は力なり』という言葉もある。続けているうちに動作も機敏になって、次の器械に移るのもさっと出来るようになる。
現に彼女がそう言っている。やってみよう、と決心し、その日のうちに申し込んだ。
始めてまだ1カ月足らずだが、手の肘から手首までの内側に筋肉がついてきたのを実感する。
カーブスまで歩いて7、8分と近いし、行ってみれば知った顔の人が多い。
何より大きな声で「美保子さん、こんにちわ」と声掛けしてくれるのが嬉しい。
そんなわけで、多分そのお店では最高齢の私のカーブス生活が始まった。週3回を目標に、楽しみながら通っている。
その内きっと、手すりがなくても階段を上がれる日が来るのを楽しみに頑張っている。
最後に一言。
『カーブスで 響くコーチの 掛け声は おなか引っ込め 背筋を伸ばせ』