この春、私にはいくつかの別れがあった。最も印象的なのは、カーブスのインストラクター、Jさんとの別れであった。
 Jさんとは、私が2010年8月にカーブスに入会してからの付き合いになるので、約9年間に及ぶ。入会当時は私も40歳独身で、いわば"崖っぷち"状態にいた。Jさんは私より3歳若かったが、年齢が近いうえに独身ということで妙に親近感が湧いたものだった。京都出身というのもより印象付ける要因になった。その後、私にはすぐにお見合い話があり、トントン拍子に話が進んだ。年末には結婚パーティを開くことになり、ドレスを着るために少し絞ることにした。
 絞ると言っても本格的なダイエットではなく、カーブスに通い、間食をしないなど、食事を少しだけセーブするぐらいである。そんな私の地道な努力をJさんはすぐに見抜いていた。
「ずいぶん痩せたみたい」
と言ってくれたのだ。その言葉がどんなに心強かったことか。今の夫になる人とは2~3回会っただけで結婚を決めてしまったため、そんなつまらないことを相談できる間柄ではない。晩婚ということもあり、周りはとっくに結婚し、子育てに忙しい人も多く、1人孤独にダイエットにいそしんでいた。そんな私の心を見透かしたかのようにJさんは度々声をかけてくれた。

 しかし、すぐにお別れがきてしまう。翌年の3月、結婚に伴い、都内の別の場所に引っ越すことになったのだ。Jさんは
「せっかく会ったばかりやのに」
と落胆していたが、引っ越し先でもカーブスを続けるという私の言葉を聞き、喜び、励ましてくれた。
「Jさんみたいな人、いるかなあ」
期待と不安が入り混じった状態で引っ越し先の店舗を訪れた。すると、Jさんのいたカーブスとは全く雰囲気が異なっていた。楽しくは通っていたものの、インストラクターの皆さんがメンバーに気を遣いすぎているようにも感じた。そのため、メンバー中心に全てが動いているようだった。細かいことだが、サーキットに入るときも、以前いた店舗では絶対にインストラクターの指示の下に入っていたが、この店舗では勝手にメンバーが入るシステムになっていた。
「Jさんだったら絶対に怒るだろうな」
そう思うことも度々あった。結局、その場所には2年間ほどいて、1歳になる娘、夫とともにまた元の場所に戻ってきた。

 またもや期待と不安が入り混じった状態で元いたカーブスの店舗に顔を出すと、Jさんはいた。他の人は皆知らない人ばかりで、Jさんの顔を見ただけでホッとしたのを覚えている。その頃、子育ての疲れからか食べても体重が減少し続けるという状態に陥っていた。Jさんは
「痩せているけど、よくないよ。ちゃんと食べている?」
と心配してくれた。週に一度、母に子育ての手伝いに来てもらっていたが、痩せたことに関しては何の心配の言葉もなかった。しかし、たまに写真を撮ると痩せているのは誰が見ても明らかだった。実際に写真入りの年賀状を送ると、心配の声をいただくこともあった。それでも皆まるで腫れ物に触るかのように直接は言ってこなかった。体重が元に戻り、随分時間を経てから言ってくる友人もいた。
 この経験から、気づいたときにすぐに言ってくれるありがたさをひしひしと感じるようになった。もちろん、私にも言おうとしていたことをのみこみ、つい後回しにしてしまう癖がある。しかし、お互いに明日どうなるかなんてわからないのだ。突然引っ越すことになる人もいるだろうし、病で倒れる人だっている。だから、会いたい人にはすぐにでも会い、言いたいことを伝えた方がいい。そう強く思うようになった。
 子供が3歳児になり、保育園に行き始めてから私も働くようになり、少しだけ心の余裕が出てくるようになった。すると、今度はみるみる太りだし、毎月の計測の度にJさんから注意を受けることもあった。
 Jさんの突っ込みはかなり厳しい。こっちはなんとか胡麻化そうといろいろと理由を並べ立てるのだが、
「何を食べたの?」
「何か変わったことあった?」
と、まるで全てを見透かしているかのように容赦なく尋問された。元々大食い&早食いで、なんでも好き嫌いなく食べる方なので、厳しい突っ込みでも入れてもらわないと、ぶくぶく太ってしまうのだ。おまけに年齢を経るにつれて代謝もかなり悪くなっていた。プロテインをとるようになったら、少し痩せたりもしたが、体重・体脂肪は気をつけていないとすぐに増えてしまう。
 しかし、そんな風に何かと気にかけてくれたJさんはもういない。最終日に
「また会えるよね?」
と聞いたら、
「もうこの店舗には来ないよ」
と言っていた。家庭の事情から、京都の実家を行き来するようになるらしい。もし再びカーブスで働くことになっても、東京にくることはないようだ。

 私にもいろいろな事情から何度もカーブスを辞めようと思ったことがあった。しかし、今こうして続けていられるのも、自分の頑張りはもちろんのこと、Jさんをはじめとするインストラクター、そして周りの人たちの配慮、フォローがあったお陰なのかもしれない。"出会いは別れの始まり"という言葉があるが、私は敢えて"別れは新たな出会いの始まり"と思いたい。彼女の今後の活躍を祈りつつ、私は今日もカーブスに通うのである。