「お前か!」
当時4歳だった私の娘を指さしながら、怒鳴りまくった若い女が娘の髪を掴み、近くのコンクリートに頭を打ちつけた。そして、赤いヒールで二回ほどお腹を蹴り上げた。その女のように半狂乱になった私は「やめて!」と叫び続けたものの、全く耳に入らない様子で娘を執拗に追い掛け回し、攻撃の手を緩めることはなかった......。
にわかに現実とは思えないこの惨状。しかし、2017年4月10日の夕方、実際に私の目の前で起きた出来事である。その後、近所のママ友、八百屋のご夫婦が身を挺して娘を守り、最終的には男性がその女を取り押さえたことで、事なきを得た。現場には、女に抜かれた大量の娘の髪の毛が山になっており、事件の凄惨さを物語っていた。
当然のごとく警察沙汰になり、その日の22時近くまで警察署で取り調べを受け、深夜、早朝に二回、警部補の訪問があった。精神的、肉体的にかなりの疲労感が伴い、その日は一睡もできなかった。眼を閉じると、そのときの場景がフラッシュバックする。もっとああすればよかった、という後悔と共に、あの女がまた襲ってくるのではないかという恐怖心もつきまとった。
次の日は私たちの気持ちを表現するかのように朝から激しい雨が降り、どんよりと暗い日であった。娘もいつものような元気はなく、やけに大人しかった。その様子を見て夫は「いい薬になった」などと言っていたが、私はあんな思いをさせて申し訳ないという気持ちのほうが強かった。その日は、娘を小児科に連れて行ってから保育園へ連れて行った。休ませても良かったのだが、なるべくいつもと変わらない生活を送ったほうがいいとの配慮からである。小児科では、大量に抜かれた毛髪の跡と片足にできた痣を丹念に調べられた後、精神的なケアが必要かどうか聞かれた。私はそこまでのケアは必要ないように思い、そのように告げた。どちらにしろ、児童相談所にも受け入れる余地がないとのことで、何かいつもと違う兆候が見られたら精神科のほうに行くように言われて終わった。
保育園に行くと、ちょうど給食を食べる時間になっており、いつもは意地悪してくるお友達も温かく迎えてくれてホッとした。保育士の方からも、娘のことはもちろん、私の肉体、精神状態を心配していただいた。
在宅で仕事をしている私は、昼頃気分転換がてらカーブスに行くのが日課である。しかし、さすがにその日はカーブスを休んだ。かといって、家にいると気が狂いそうだった。パソコンに向かっていると、自然と涙が出てきて、気づけば泣きながら仕事をしているような状況。保育園側の配慮もあり、その日は夕方に仮眠をとってから、いつもより1時間ほど遅い18時頃に迎えに行った。娘もいつものような元気はなく、事件のあった場所の近くを通ると、シクシク泣き出した。
「怖い......早く家に帰りたい!」
私も泣きたかった。しかし、娘の前では泣かないと決めていた。肉体的にも精神的にも一番辛いのは娘のほうなのだ。とにかく誰かに話を聞いてもらいたかった。
自宅から1時間ほど離れたところに住んでいる私の母は、「娘を騒がせていたお前が悪い」「事を大げさにするな」の一点張りで全く話にならなかった。以前から毒親の要素満載だと思ってはいたが、やっとその本性を現した、といったところか。究極の状況になってこそ、その人の本性が分かるものである。私はそれから母とは徹底的に距離を置くようになった。
事件から2日後にはカーブスへ行った。こんな状況だからこそ「行きたい」と心の底から思ったのだ。心の中はボロボロだったが、敢えてそのような素振りは見せず、いつものように振る舞った。ただし、カーブスでいつも会うTさんには話してしまった。
「かわいそうに。髪の毛一本抜くのだってすごく痛いでしょう」
と娘のことを心配してくださった。
加害者のほうにもいろいろと事情があり、重大な精神疾患を抱えていたことも少しずつ明るみになっていた。加害者を恨む気持ちはないものの、とにかく同情してほしい。ただ黙って話を聞いてほしい。そんな思いが私の心の中に渦巻いていた。今思えば、ただの悪口だったかもしれない。それでも、カーブスでトレーニングし、Tさんや近所のママ友に話を聞いてもらうことで、段々と私自身も平常心を取り戻していた。
実際に、私の回りにも精神疾患を抱えている人はいる。そのような人にこそぜひカーブスに行ってほしいと薦めてみるものの、なかなか一筋縄ではいかない。もちろん、人に言われたぐらいでホイホイ行ってみよう、などと簡単に思えないのは確かなのだが。
ただこれだけは言える。肉体と精神はつながっており、精神的にストレスが溜まると肉体の調子も悪くなる。病気になり、早死にすることもあるだろう。カーブスに行けばそれが全て解消するというわけではないが、筋トレをひたすら頑張るという自分自身と向き合う時間を作ることで、かなりのストレス解消になるものだ。私自身も筋肉がついたせいか、持病のアレルギー性鼻炎からくる風邪のような症状もほとんどなくなり、耳鼻科に行く回数も激減した。今年の1月、大流行したインフルエンザB型は娘からうつされたものの、同じく保育園で大流行した胃腸炎の症状は出ないなど、免疫力も確実にアップしているように感じる。筋トレ後にカーブスのスーパープロテインを飲むのも至福の時。このような楽しみを独り占めしていていいのだろうか、と思いながら、私は今日もカーブスに通っているのである。
佳作
「カーブスを休んだ日」
カーブスって
どんな運動?