カーブス日の出のドアーを開けると「はるこさーん、こんにちは」と、コーチの明るい声が飛んでくる。声のほうに視線を向けると笑顔のお出迎えを受ける。
始めのころは恥ずかしい気持ちだったが、「来てよかった」と一瞬思うし、頑張ろうという勇気も湧く。
新聞の折り込み広告に体験募集が入っていた。以前にも体験募集の記事は何度か目にしていたし、八十歳を過ぎても通う義姉の話も聞いていたが、なかなか「受けてみよう」という気になれないでいた。が、今回は本気に考えた。
最近、中腰の姿勢からスッと立ち上がることができなくなっていた。女性の寿命が八十六歳だといわれているのに、七十歳にならない私が今の状態ではこの先思いやられる。傍の何かに手を伸ばして捕まらなければ立てない自分に危機感があった。
子どもの頃、病弱で走り回って遊んだ記憶はあまりない。六歳のときにしょう紅熱を患い、ストレプトマイシンの薬害で聴覚神経がやられ軽度の難聴となった。難聴というのは外目ではなかなかわからない。かばってくれるようなことは少なく、子どもの中にいても気ばかり疲れ、体調にも影響が出て学校も休みがちだった。
そんな私に親は心配し、「休んでなさい」「寝てなさい」が常で、大事に大事に育てられた。体に負担になることは極力さけていたので、運動はしない、由って好きにもなれない。使うべきものを使わないのだから今でこそ悪循環だと思うが、必然的に体力はついてこなかった。
高校を卒業して保育所勤めをした。好きな職業に就けて、幼児との生活は私を生き生きさせ無我夢中で過ごした日々は、いつのまにか気と心が体を作ってくれたように思う。充実した年月が過ぎた。
結婚して、子に恵まれ、二人の息子を産むときに、また、自分の体の弱さを知ることとなった。腹筋力が全くなく、長男の出産は吸引分娩で、次男のときは切迫流産の心配で入院したり、破水しいよいよ生まれるという段階になっても陣痛が弱く、それを促す注射を何本もして、やっとのことでなんとか出産できた。
夫や夫の両親に反対されたが、専業主婦でいるよりも再び保育士の仕事に復帰する道を選択した。家事と子育てと仕事を頑張れば頑張るほど、慢性疲労が蓄積した。いろいろなことがあったが、私は健康のための「運動」という意識をほとんど持たないで生きてきたと思う。
五十代で椎間板ヘルニアになり、治療後、医者から水中歩行を勧められ半年ぐらいはスイミングクラブに通った。良くなれば通わず、再発すると情けないと思いながらも同じことの繰り返しだった。
更年期に入り、聴力がガクンと落ちて、両耳に補聴器を着用する障がい者となった。
慣れないこと、特に新しい環境に入っていくことはそれなりの挑戦である。だが、老後の日々を考えてみると、今ここで動かなければという切迫さに勇気を出して体験申し込みをすることにした。
初体験をした日、なんともいえない爽快感があった。体が重いとは思っていなかったが、最近感じたことのない軽やかさだった。
カーブスに入会して通えば、体に変化を感じる喜びが生まれるかなと、そんな期待が芽生えた。
コーチに付き添われて器械の使い方の指導を受けて、その後も時々正しい使い方を教えて頂き、一つ一つの器械にはそれぞれに違う筋肉の部位を使うことを知る。意識的にその部位を動かすのだと集中すると、目的に向かう気構えのようなものができた。回を重ねるごとに、ボードで足踏みをしながら器械の傍にある説明プレートを確認することを知らずしらずに身につけていた。すると、筋トレ効果がたちまちに顕われた。
入浴のとき、着替えで鏡を見るときにお腹や腕、腿のまわりがすっきりしてきたと感じられた。二階への階段がスムーズに登れる。肩こりや腰痛には湿布や鎮痛剤に頼っていたのに、「おやおや」痛いことの心配度が変わっている。肩こりには憎帽筋、菱形筋、大胸筋の伸屈が良いとわかり、腰には腹筋力も大事と意識的に、台所に立ったとき、入浴中や風呂上りなどちょっとした時間でもストレッチを行うようになった。
近くても車での移動が主だった私が、歩行でも大丈夫と自分に言い聞かせる私になって、近距離の買い物など歩いて行こうと心がける。
疲労感があると、栄養ドリンク剤を飲んで癒していたが、こんなときこそ気分転換にカーブスに行こうという心組みが出来た。
「カーブスってすごいね」
「運動するって大事なことだね」という私に、夫は口には出さないが「そうか、よかったな」と後押ししてくれるようないい表情を返してくれる。
週に一、二回だが、カーブスに行けた日には、毎回
「体調はどうですか」とコーチが声を掛けて下さる。私も初めて行った日には考えらないほど、積極的になって、小さなことでも変化のあったことや気付いたことをコーチに話すようになった。
「治子さんが頑張っているから、筋力が付いてきたのですよ」と励ましてくれ、「うれしいですね」と共に喜んで下さる言葉が、次の頑張ろうという気持ちに繋がる。
運動することに目覚めたのは、少しずつ体の変化に気づいたこと、そして運動価値の意識づけ、カーブスの前向きなとらえ方を受け止めたからだと思う。
朝の目覚めがいいと、今日という一日が元気に生きられる気になる。ベッドの上で手足を屈筋したり伸ばしたり、お腹も思いっきり伸ばしてから起き出すようになった。
ベッドから離れる前に「今日はカーブスに行こう」と一日の流れに組入れる日が増えた。