上履きにフェイスタオルと水。用意はそれだけ。荷物を持って玄関に向かう。私がカーブスに入会したのは二〇一四年の七月、五十一歳の時だった。あの頃の私は、体重が十キロ以上オーバーしているだけでなく、血液中のコレステロール、中性脂肪値などが基準値を超えていた。おまけに三十分以上歩くと、右膝に強い痛みを覚えるようになっていた。
医師からは歩くことを勧められた。けれども、膝が痛むからウォーキングができない。昔、得意だった水泳を再開しようと思ったものの、今の自分に合う水着を選ぶのが憂鬱だった。そんなときに、「カーブスはどう?」と、勧めてくれる友人がいたのだ。
「筋肉を鍛えた結果、膝の痛みが治った人もいるみたいよ」
友人もカーブスに入りたててで、インストラクターさんの言葉を、そのまま私に伝えてくれた。運動しやすい服装なら、着替える必要もないという。手軽さに魅かれて、私はさっそく入会を決めた。サーキット内を二周する。全てのマシーンを動かすコツをつかむまで、一カ月近くかかったと思う。それでも腹圧を意識しつつ、マシーンに馴染んでいった。お腹に力を入れながら、息を吸っては吐く。インストラクターさんから、その都度使う筋肉を意識する様ようにと教えられ、その場所が燃焼しているイメージを頭の中に思い浮かべる。
一周を終える頃には額に汗がにじみ、二周目にはタオルで拭うほどの汗が出る。水分補給も欠かせない。痩せたい一心で、週四回ペースで通い続けた結果、一年半で七キロ近く体重を減らすことができた。途中、少々リバウンドすることもあったが、小刻みに増えては減る、を繰り返しながら減っていった。膝の痛みも、いつの間にか消えていた。
私は、かつてハイキングが好きだった。近場のハイキングコースを、数え切れないくらい歩いた。同じ道でも、季節や天候によって風景がまるで違う。山頂できれいな空気を吸い込み、眼下の景色を眺めるのが至福の時間だった。十年ほど前になるが、夫と二人で尾瀬ヶ原、尾瀬沼を縦走したこともある。小雨の中、ニッコウキスゲが点在する小道を抜けて、尾瀬ヶ原の奥にある山小屋に一泊した。
「今度は水芭蕉のときに伺いますね」
山小屋の主人にそう言って別れを告げた。
もう一度、尾瀬を歩く。それが私の夢となった。けれども、親の介護が重なってハイキングどころではなくなると、運動不足と更年期障害が加わって体重が右肩上がりに増えた。
何キロ歩いても平気だった足が、いつの間にか近所の買い物だけで音を上げるようになっていたのだ。
カーブスを始めてから、近くの低山にチャレンジした。時間はかかったが、何とか頂上まで辿り着くことができた。眼下には瀬戸内海が輝いている。自分の中で滞っていたものが、一つ突き破られた心地よさを味わうことができた。
入会して一年が経つと、少しだけ余裕が出てくる。ボードの上を歩くときに、メンバーさんを見渡すことが多くなった。ボード上で軽く走っている人もいれば、足を高く上げている人もいる。名前も連絡先も知らないけれど、何度か会ううちに挨拶だけ交わす人もいる。いつも黒ずくめだった人が、淡い花柄のシャツを着ているのを見つけたときには、思わず微笑んだものだ。春が近づくと、半袖の人が増える。まだ3月だというのに半袖、半ズボンのメンバーさんがいたのには感心した。長袖、長ズボンが欠かせない冷え性の私には、真似ができないスタイルである。日々、メンバーさん達を見ているうちに、はたと気づかされた。私がカーブスを続けて来られたのは、同じように頑張っている人達が、近くにいたからだと。
この春、友人をカーブスに誘うために電話した。彼女は以前から膝の痛みを抱えており、階段を上ない時期もあったとのことだ。
「実は私も膝が痛かったのよ。だけど、カーブスを始めたら痛みがなくなった。筋肉がついたことが、よかったみたい。それに七キロ近く痩せたの。その結果、膝への負担が減ったんだと思う」
「あなたに、そんな効果が出たんだったら、私もやってみようかな」
受話器の向こうから弾んだ声が聞こえた。
無料体験にやって来た友人は、その日のうちに入会した。目下、彼女の目標は正座ができるようになることだ。正座は、お孫さんと一緒に遊ぶときに、どうしても必要になるのだという。膝の痛みが和らいだら、きっと正座ができるようになるだろう。彼女とは時間帯が合わなくて、カーブスで会えないのが残念だ。ところが、先日着替えをしている最中に偶然にも出くわした。
「おかげさまで、ぼちぼち頑張ってるわよ。今日は用事があって遅くなったけど、カーブスは時間に余裕のあるときに行けるから便利よね」
笑顔を見せながら彼女が言う。彼女が頑張っていることを知り、私の中にも力が湧いた。
カーブスに入って減量以外で変わったのは、筋肉だ。以前は、触ると水のようにブヨブヨしていたふくらはぎが、固く引き締ってきた。サーキットで鍛えたあとに行うストレッチも、クールダウンの大切な時間となっている。カーブスに行かない日は、できるだけ自宅でストレッチをするようにしている。テレビを観ながら、あるいは音楽を聴きながら、ゆっくりと手や足を伸ばす。こうした日々の積み重ねが、次回のカーブスへ意欲を高めてくれる。
入会して、もうすぐ2年。血液検査の数値も改善しつつある。目指すは、あと数キロの減量だ。それが達成されたら、尾瀬に再チャレンジすることもできるだろう。肥満がピークだった頃には夢としか思えなかったことが、現実味を帯びてきた。まずは神戸近辺の山に出かけてみたい。カーブスが、諦めかけていた夢をかなえてくれる。さあ、今日もカーブスへ出かけよう。
佳作
「夢をかなえる」
カーブスって
どんな運動?